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挑戦 その5 南アルプス単独行

(挑戦・その5)

<南アルプス単独行・仙丈-塩見-蝙蝠岳-二軒小屋-転付峠>
2001.7.22(日)-26(木)


 昨年夏の槍穂縦走以来の単独行である。間ノ岳-熊の平-塩見岳の間を歩いて、南アルプス全山縦走を完成させることが今回の第一の目的。縦走路のうち、ここだけが歩いていなかった。行く直前になり欲が出て、仙丈岳-三峰岳の仙塩ルートと塩見岳-蝙蝠岳-二軒小屋-転付峠越えのルートをこれに加えた。この二つは昔から行きたいと思っていたところである。特に二軒小屋-転付峠越えには強くあこがれていた。

 天気は長期に安定するとの予報。介護をしている母を施設に預け、19日から出かけようとしたが、20-22日が連休のためにどの小屋も満員で予約ができず、出発を22日に延期した。

 新宿7:00発の特急に乗る。8:27、甲府着。駅前で、タクシーの運転手に呼びとめられた。
広河原まで4人の相乗りで、1人2500円でどうかという。承諾。バスで行けば、広河原発、北沢峠行12:30の村営バスに乗る予定だったが、タクシーのお陰で1台前の広河原10:30発に間に合った。

 登山者が多く、バスが4台も出る。そのバスを待つ間のことだ。登山センターの人がやって来て「この3日間で、3件の骨折事故が起きています。皆、中年の女の方。昨日発生した足の複雑骨折事故は、午後3時頃から大雨があり、下山を急いでいて滑ったためです。足元には十分注意を」との話があった。北沢峠11:00着。

 11:20、歩き始める。きょうは仙丈岳直下にある仙丈小屋まで、標準で4時間のコース。時間はたっぷりある。
多数の登山者が休んでいる藪沢小屋への分岐に13:20着。曇りだが、時々、日がさす。雷は無さそうなので、小屋へ向わずに仙丈岳頂上を目指すことにした。

 ゆっくり登り、15:50、山頂着。あいかわらず、霧が出たかと思うと日がさすという天気。下の小屋までは15分で行けるだろう。岩に腰をおろし、のんびりと休息。時間が遅いせいか、山頂には1組の夫婦がいるだけ。白い霧に包まれて、いつの間にか居眠りをしてしまい、ふと目覚めると、真上に青空が広がっていた。

 小屋へ。新設の仙丈小屋は満員に近かった。定員80名。食事は出ないが、カレー等のレトルト食品なら買って食べられる。こちらは持参した赤飯(乾燥米)とカップメンを食べた。
小屋の隅からマットと毛布を引き出して休んでいると、小屋の主人がやってきて「指示があるまでマットと毛布は使わないように」という。土間にあるテーブルの使い方についても指示された。うるさいこと。

 小屋に着いても、ゆっくり休息ができないとは。客よりも小屋の管理を優先させる態度には腹が立った。

 持参したカメラの電池が切れており、使い捨てカメラを買う。2600円。下界では500円位か。

 2日目、3:30起床。きょうからが本番だ。熊ノ平まで標準で9時間のロングコース。休憩を入れれば、10-11時間か。案内書を読むと、3千mの高さから2千mまで下った後、再度3千mに登り返す。

 人はあまり入っていなし、倒木で通りにくい所もあるという。普通なら2日をかけるコースを1日で行くつもりである。手ごたえがありそう。どんなところか、期待と不安が交差する。

 湯を沸かしポットに詰めて4:30スタート。遠くにまちの灯。高遠のあたりか。でも、空は明るさが増し、懐中電灯は要らない。天気は快晴。仙丈山頂にはご来光を見ようとすでに多くの人が先着していたが、こちらは先が長いので立ち止まらず、4:45、一気に下りにかかる。

 はじめはゆるやかで歩きやすい岩稜帯。途中から樹林帯。倒木は片付けられており、歩きにくいところはない。中年の男性が1人追い付いてきた。
山口から、はるばるやって来た59歳の方。毎年1度、南アルプスに登りにくるという。きょうの行程は馬の背ヒュッテから熊の平まで。アレコレと山の話をしながら歩いていると、あっという間に標高2200mの最低鞍部・野呂川越えに到着した。到着は8:50。ここから更に下れば30分で両俣小屋である。

 9:00スタート。今度は延々と3時間の登り。風がなく、むし暑くなった樹林の中を行く。さすがにきつい。ゆっくり歩いていると、60歳前後の単独行の女性に抜かれた。

 馬の背ヒュッテから三峰岳・間ノ岳を通り北岳山荘までをきょう1日で歩き通すという。すごいおばさんがいるものだ。樹林帯を抜けると、日が照り付け、暑さが増す。視覚障害者の人にとって、登るのがむずかしそうな岩場が1箇所あった。

 4人組の男性を抜く。結局、きょう会ったのはすれちがった人も含めて7-8組か。南アルプスのメインルートを外れており、さすがに登山者は少なかった。

 三峰岳着、12:20。三峰岳までの仙塩尾根コースをまとめれば、「人が少なく静寂がとりえ。道はしっかりしている。ただし、長くて単調。それに長時間の下りのあとだけに、登り返しがきつい」というところか。
心配していた雷の恐れはない。熊の平小屋へとのんびりと下り、14:10着。

 小屋は沢の水が豊かに流れる森の斜面に立つ。シーズンオフには風呂も立てるという。小屋の前は板敷きの広々したテラス。前面の谷越しに雄大な農鳥岳。それが夕日に赤く染まる。なかなか良い所だ。

 定員70名。連休が過ぎたというのに、ほぼ、満員である。すべて、中高年の人達。特にたくましいおばさん達が多い。南アも北アも、今は中高年登山が花盛りだ。まだ、まだ、増えると思われる。

 3日目塩見岳を越え塩見小屋へ。標準で4時間30分のコース。のんびりと出発準備をしていると、早朝の5:30なのに登山者が誰もいなくなった。小屋の主人に送られて私も出発。きょうも快晴である。

 初めは樹林帯。途中、岳樺の太い幹に腰をかけて朝食。樹林を抜けると北荒川岳の平坦な山頂広場。展望よし。正面に塩見岳の急峻な斜面が望まれる。次いで、お花畑。これを過ぎると、いよいよ塩見へのガラ場の急な登り。右側は断崖となり切れ落ちている。稜線に出るとすぐに蝙蝠岳への分岐。更に登り、塩見岳着11:30。しばらく、山々を見て過す。

 塩見小屋、12:30。ここも予約で満員のもよう。小屋の脇にある仮設の建物(10畳ほどの板張りのテント状のもの)に案内された。屋根はトタン。日が照りつけてとても暑いし、アブも多い。
ここに単独行の男性9人が押し込められた。布団とザックもあって、キツキツ。早く着いたので本でも読んでのんびりしようと思っていたが、それは無理だった。

 夕方まで同室の人達と雑談をして過す。日本に25年いるというアメリカ人、光岳から北岳まで縦走する人、重い写真機材を持った70歳位の新潟の人など。二軒小屋へ行く人もいた。心強い。夜は雷雨。

 4日目、3:30起床。きょうのコースが今回で最も長く、しかも人が入らないところ。標準で11時間かかる。
計画当初は行く気が無く、メインルートを通って三伏峠から伊那大島に下りるつもりだったが、山の状況を調べる中で、このルートの「道しるべ」が昨年整備されたことが分かり、行ってみる気になった。

 もう一度行きたかった二軒小屋に行けるのが最大の魅力である。塩見小屋の人に確かめると、迷う恐れはまったく無いという。

 頼んでおいた弁当(いなりずし)を受け取り、4:20スタート。さすがに風が寒く、ジャケットを着用。まずは、昨日来た道を引き返し塩見岳へ。

 黒々とした塩見の岩峰が眼前一杯に立ちはだかる。日の出。でも、ここにはまだ、日が差さない。手がかり・足がかりを確認しながら切り立った岩場を慎重に登る。
1人を抜き、西峰着、5:10。朝日を一杯に浴びて、快晴の天空の中に立つ。遠く近く、周囲はすべて山。

 悪沢岳、荒川中岳、間の岳、北岳、仙丈岳など。中央アルプスや恵那山、北アルプスも。これから行く蝙蝠岳の上には、はるかに高く富士山が望める。西峰から5分の東峰には先着2人。うち、下り始めた1人が同じコースを行く人のようだ。

 一緒になった2人と写真を撮りあい、5:30に山頂を離れる。下りに1箇所、視覚障害者にとって危険なところあり。両側が深く切れ落ちた細い道。晴眼者でも怖い。
幅は50cm、長さは10m位か。これを越え、6:10、分岐着。

 すぐに蝙蝠岳へ向かう。まずは岩の上り、下り。次いで岩畳の尾根。鞍部の前後は朝露の残る岳樺の中を行く。黄色い花が一面に咲く窪地もあった。
山頂付近は再び、砕けた岩畳の広大な尾根。歩き易い上に山々の展望が良い。

 谷を隔て大きく悪沢岳荒川中岳。このあたりが蝙蝠岳のおすすめポイントであろう。8:00、山頂着。二軒小屋に向けて先行した人がまだ休んでいるかと思ったが、その姿はない。弁当を広げて全部食べる。お茶もうまかった。


 8:30山頂発。分岐から蝙蝠岳を往復する人は多いが、ここから先はほとんど人が行かないところ。はたして、道に迷わずに行けるだろうか。
15分で展望のよい尾根が終わり、樹林帯に入る。岩や樹木に5-10m置きにペンキで大きな赤いしるしが付いており、迷う恐れは全くないようだ。
一安心。樹林の中、いくつか小さなピークを越える。

 日が差し込んでいるところを通ると、わっと羽虫の柱が立ち、全身が虫だらけになる。ただし、人が通らないためか、仙塩尾根に多かったアブはほとんどいない。迷う心配がなくなったので快調にとばし、標準で2時間30分かかるはずの蝙蝠岳-徳右衛門岳間を1時間10分で歩いてしまった。徳右衛門岳9:40着。

 ここからは急な下りの連続。足場の悪い所もある。神経を集中して駆け下りたが、さすがに1時間で足が痛くなり、林の中の倒木に腰を下ろして15分の休憩。ポットの湯でコーヒーをいれ、パンとリンゴを食べる。風が通り、心地よい。

 下る途中、登ってくる登山者に初めて出会った。徳右衛門岳でテントを張るという中高年の2人組。きょう、このコースに入ったのは私のほか、先行の一人とこの2人だけのようだ。

 更に下ると、尾根のはるか下、右にも左にも木々の間に河原が見えるようになった。あの合流点が二軒小屋
12:40、やっと林道に出る。脇を流れる清流は河原の幅が20m位の、大井川の源流である。もう、小屋は近い。時間がたっぷりあるので、水を浴びることにした。

 どうせ、こんな山奥には誰も来やしない。下着も脱いで裸になる。透きとおった冷たい流れにタオルをひたし、汗でべたつく体を洗う。この上なく気持ちよし。河原の砂場に小枝を立てて服を乾かしながら、パンツひとつでザックに腰をおろし、開放感を満喫する。
時々、日がさし、木々の緑が目に映える。風も快い。13:15まで休憩。

 13:40、二軒小屋ロッジ着。休憩も入れて9時間20分、正味では8時間弱で塩見小屋―二軒小屋間を歩いたことになる。

 ロッジの前は広々とした庭。風にそよぐ白樺の下にテ-ブルとベンチがいくつか置かれ、奥にはピンクのヤナギランが咲く。軒下にある缶ジュースの販売機に、久しぶりに人里を感じた。

 20年前にMさんと来たところ。あのときは赤石岳悪沢岳に登り、千枚小屋に泊まった後、雨の中をここに下りてきて、バスが出るのを待ちながらビショヌレの服を乾かした。
そのとき、こんな山奥にこんなすばらしいロッジがあるとはと驚かされ、以来、いつかもう一度来て泊まってみたいと思い続けてきたが、それが今、実現した。

 このロッジは静岡からバスで3時間30分、そこから更に迎えの車で1時間の山奥にある(経営するのは東海パルプの子会社・東海フォレスト)。宿泊費は1泊2食付で13千円。部屋は2段式のベッドだが、食事は10品ほど付いており、広間のレストランでとる。また、ベランダは広く、木製の寝椅子などが置かれている。

 18時の夕食まで、のんびりと過ごす。まずは昼食。広い庭に出て、持参のコンロで湯を沸かし、五目ごはん(乾燥食品)とカップメンを作る。ティーバックで入れた熱いお茶が特にうまかった。次に風呂に入る。ヒノキ風呂で、洗い場はスノコ敷き。蛇口が6つという広さ。
 
その後は、ベランダの寝椅子で持参の「真田太平記(司馬遼太郎著)」を読む。白樺の林を吹き抜ける風が快い。雲が動き、遠くに雷鳴を聞く。
昨日までの山小屋はどこも狭い上に混雑しており、午後早く着いても、のんびりすることができなかったが、このベランダには自分のほかは誰もいない。体と心が緊張から解き放たれて、フワフワとただようようだ。至福の一刻である。

 夕食後、ベッドで9:30まで本を読む。宿泊客は5人。週末は30人位が泊まるというが。

 5日目。朝食後、弁当を作ってもらい、7:30に出発。転付峠越えは自分だけ。あとの客4人は東海フォレストの送迎車で静岡側に出るという。

 天気は曇り。標高2千mの峠を目指し、整備された山道を登る。途中、峠にテントで泊まったという単独行の男性とすれちがう。転付峠、9:00着。広い林道が通っている。江戸時代のものだろうか、古びて端の欠けた石の「道しるべ」がポツンとひとつあるだけ。
どこにでもありそうな村の峠といった感じである。依然曇っており展望なし。下へ5分のところに水場あり。

 ここから1時間は林の中の下り。それからは沢筋を行く。10:30、保利沢小屋跡着。両側から山がせまって、谷が深く切れ込み、道が悪くなる。谷底まで数十mはあろうか、垂直に近い断崖の上に踏み外しそうな細い道が続く。

 危険な箇所には木や鉄の桟道が架かっているが、傾いたものが多い。大きな崖崩れで谷が埋まっている所を通過。村人が数組入って、道の修理をしていた。
昔からある峠道なので、軽く考えていたが、思いのほかに道は悪い。視覚障害の人が行く場合は、強力なサポートが絶対必要と思われる。車道着、12:00。バス停着、13:00。結局、すれちがった登山者は2人だけだった。14:29のバスでJR身延駅に出て、甲府へ。

 1年ぶりの単独行。5日間も山を歩けて大満足である。ロングコースを計画どおりに完走できた。5日目を除いて運良く晴天に恵まれ、終日、すばらしい展望が満喫できたし、恐れていた雷に遭うこともなかった。

 裸で河原の水浴びもやったし、二軒小屋にも泊まった。蝙蝠岳-二軒小屋間は道が分かるかと心配だったが、これも「道しるべ」が完備していて道に迷うことは全く無かった。体調もまあまあ。胃は不調だったが、毎日、薬を飲んで何とかもたせることができた。
脇腹がこって、やや痛んだが、痛さが増すことはなかった。歳をとり、力は衰えつつある。

 しかし、コースタイムは標準か、それ以内で歩けたし、帰ってからも疲れは残らず、足も痛くならなかった。

 まだ数年は、この程度の山歩きが出来そうに思われる。

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