視覚障害者登山

視覚障害者登山・六つ星山の会

<視覚障害者登山・六つ星山の会>

はじめに
視覚障害の方々と山に登る「六つ星山の会」の会員となって19年、役員になり会の事務を担当するようになってからでも10数年が経つ。
以下に2009年の年賀状を掲げるが、最近はこんな心境である。

年賀状
明けましておめでとうございます。ことしもよろしくお願いいたします。     
こちら、六つ星山の会での活動、孫の世話、囲碁などで結構忙しい毎日を送っています。いつかまたサンチャゴ巡礼ができたらと夢見て、数週間の長期ウオーキングに耐えられる体力作りにも心がけています。

 六つ星山の会に入会して19年、役員になって10数年が経ち、この間、楽しいこと、苦しいことが沢山ありました。71歳、ちょっと疲れましたが、六つ星で活動することで人生が豊かになり、幸せだったのではないかとも思っています。

 最近は、「サポートをすること」って何だろうとあらためて考えています。サポートをする人にとってどんな意味があるのか、視覚障害の方にとって六つ星があることの意味は、また、「誰かのために無償で奉仕する人が増えること」は今の世の中にどんな意味があるのか、などです。これらの意味を深める中で、今後も六つ星に前向きに取り組んでいければと思っています。皆様には、今年も幸多き年でありますようにとお祈り申し上げます。

最近の私の山行-2008年と1995年
 最近山に行くのは六つ星関係だけである。2008年は六つ星主催の定例山行が21回実施され、私はそのうち17回の山行に参加した。ほかに六つ星の有志との山行が数回ある。なお、自分がチーフとして企画したが、雨天のため前日に中止とした定例山行が2回ある(佐倉城址公園と江ノ島。このときはそれぞれ30名を超える申込みがあったのだが-うち視覚障害者は約1/3)。

 夏には六つ星の定例山行で4つの山に登った。
 6月27-29日・残雪の鹿島槍ガ岳(参加10名、うち視覚障害者2名)、7月 5-6日・八ツ岳の東天狗岳(22名、うち障害7名)、18日-20日・加賀白山(17名、うち障害6名)、8月6日-10日・南アルプス・仙丈岳-塩見岳縦走(9名、うち障害2名)である。

 特に4泊5日の仙丈-塩見縦走は思い出に残る山行となった。強く印象に残っているのは、塩見岳の山頂から急峻な岩場を下り始めて数分が経ったときに猛烈な雷雨に襲われたことである。大雨に加えて大粒の雹、更にはピカっと光った瞬間に次々と大音響で落ちる雷。幸いにして岩場が急なので、落雷は山頂や尾根にとどまり、身近な岩への直撃は避けられたが。あと、塩見小屋でもらった弁当の「いなりずし」がとてもおいしかったことが思い出される。

 これを1995年の山行と比べてみよう。               
 1995年の私の山行は年間22回、月にほぼ2回は行ったことになる。
 六つ星山の会主催の定例山行7回(甲武信岳、天祖山、九鬼山など)、会の有志との山行10回(残雪の鹿島槍ケ岳、奥穂高、鳳凰三山、飯豊山など。このうち、奥穂高には17名-うち視覚障害者5名-が参加したが、その様子は「岳人」1995年12月号に写真入りで掲載されている)、職場の仲間との山行4回(大山三峰、谷川岳、剣岳など)、独自で1回(北鎌尾根等)であり、ほかに視覚障害者とのスキーにも1回行った(六つ星主催50名参加)。

 1995年も六つ星の山行が中心であったことに変わりはないが、会の有志と行った山行が多い。一方、この頃は自分が楽しむ山行も行っている。針ノ木岳-船窪岳-烏帽子岳を単独で縦走し(これで北アルプス全山縦走が完成した)、そのあとガイドを依頼してmzさんと北鎌尾根を登った。

 2008年は六つ星以外の山行は全くない。六つ星だけ、しかも定例山行がほとんどである。孫とのつきあいが忙しいこともあり、六つ星だけで手一杯というところである。単独行こそは自分が一番好きな登山であり、是非復帰したいと思っているのだが。

六つ星山の会の概要

1、概要
 「六つ星山の会」は、視覚障害者と晴眼者が一緒に登山を楽しむために1982年に結成された山の会で、視視覚障害者86名、晴眼者127名、計213名(2008年11月末現在)で構成されている。なお、「六つ星」の名称は、点字が六つの点で表されることに由来する。参照:六つ星山の会 ホームページ   http://www.mutsuboshi.net

2、会の運営
 「同等の立場で」を運営の基本に据え、役員数は視覚障害者と晴眼者を同数とし、山行の費用は参加者の均等割りとしている。

3、全国に仲間
 全国には同様の団体がいくつかあり(千葉・新潟・富山・大阪・京都・兵庫・高知など)、数年に一度、視覚障害者登山の全国交流集会を開催している。

4、山行方法
 視覚障害者1名と晴眼者2名が、ペアとなって歩く。障害者は晴眼者のザックに軽く手を置いて歩き、晴眼者は道の状態や周囲の景色を言葉で知らせながら安全に誘導する。  
登山をする方なら、どなたでもサポートは可能。易しい道でのサポートから始めていただき、その仕方を習得していただく。

5、山行の内容
 会山行(会主催の山行)は東京近郊の日帰りで行ける比較的やさしい山を中心として年に20回程度行っている。うち数回は宿泊を伴う山行もある。

6、案内等の送付
 全会員宛に、毎月、翌月の山行案内等のお知らせを、また、年に4回(2009年は1回に変更の予定)、会報「六つ星だより」(墨字版で24-32頁立て)を送付している。なお、山行案内はホームページにも掲載されており、会員以外の方でも申込むことができる。

7、会費・保険料
 年会費3600円(1月から12月)、保険料1600円(4月から3月)、合計5200円である。

8、例会
 毎月第2火曜日の午後6時30分より高田馬場の日本点字図書館(駅から5分)において月例の集会を行っており、どなたでも参加が可能である。

(六つ星山の会の特徴
 以下は私個人の見方であるが、その特徴をいくつか述べてみたい。

1.「ときめく心」を感じる喜び
 サポートをする晴眼者にとって大きな喜びは「視覚障害者の心のときめき」を共有できることである。喜んでいる人の傍にいると自分も幸せになる。
 季節の風を感じ、鳥の声を聞きながら雑木林を通り、見晴らしのよい尾根を歩くときの爽快感。登頂をしたときの「やった」という充実感・達成感。心がときめく。北岳や槍ガ岳、富士山などの登頂に成功し、思わず涙を流す方も。山頂に立ったときは周囲から音の反響がなくなるので、天空に立ったことを実感できるとも聞いた。また、そこから生きるパワーを得ているという方もいる。

 心のときめきは晴眼者よりはるかに大きい。
 視覚障害者にとって「外を歩く」という意味での行動範囲は狭い。全く知らない土地に行くには介添えを頼む必要があり、思い立ったときに自由にいくことは難しい。このように行動範囲が狭いために、非日常の世界である登山からは、晴眼者以上に強い感動を受けるのである。
 もっとも、全盲の方でも、単独で東京から北海道や、ときにはスペインまで、人に道を聞きながら行くという勇気のある方もいるが。

2.「同等の立場で」という精神
 六つ星の会則には「視覚障害者と晴眼者が同等の立場で互いに助けあい山に登り」とあるが、この「同等の立場で」という言葉を読んで「とても嬉しい」という視覚障害者は多い。

 視覚障害の方々の中には「何事も、自分の力で晴眼者と同じようにこなしていきたい」という気持がたいへん強い。また、晴眼者から「おなさけは受けたくない」という気持も強い。「とても嬉しい」という言葉には、このような気持が反映されているように思う。

 ただし、「サポートをする、受ける」という関係なので、「同等」とは言えないのではという議論もある。

 私は次に述べる「会運営への参加」と「費用の均等負担」という2点から見て「同等の立場で山に行く」と言えるのではないかと思っている。

 それと、本当の意味で同等になれるのは、お互いの気持がいつでも通じあえるようになったときであり、そんな関係は長いおつきあいの中で、ときには喜びや苦しみを共有しながら育っていくものだとも思っている。

3.同等の立場で-視覚障害者も運営に参加。
 六つ星の役員会は晴盲同数を原則とし、また、視覚障害者も山行を、ときにはチーフとして、またはサブとして担当する。その他、事務も担当している。今は会長が視覚障害の方である。
  
4.同等の立場で-費用の均等負担。
 六つ星では山に登る費用は視覚障害者、晴眼者が均等に負担する。
 一般に視覚障害者が晴眼者に同行を依頼して行動をする場合、晴眼者の費用は視覚障害者が負担をするということがあるが、六つ星の仕組みはそうではない。

 通常、視覚障害者が個人として専門の登山ガイドを依頼する場合は、多額のガイド料が必要である。数年前、全盲の方から3泊4日で赤石岳に行きたいとの依頼があったときのことである。私以外に、もう一人サポーターが必要だったが、なかなか見つからなかった。

 そこで、山の雑誌に掲載されている登山ガイドに電話をしたところ、一日数万円の日当のほかに、ガイドの交通費、宿泊費なども負担してほしいとのことだった。視覚障害者本人の旅費も含めれば、20万円を超えるお金が必要となる。どうしても行きたい山があるが一人では行けないといった場合にはたいへんありがたいシステムであり、3000m級の山に行くのに専門の登山ガイドを利用している視覚障害者もいるが、費用の負担が重荷である。

 これに対し六つ星の場合は、交通費も宿泊費も障害者、晴眼者が掛かった費用を均等に負担しており、視覚障害者は晴眼者が一人で行くときと同じ費用で行けるのである。

 注1)視覚障害者が個人で行く軽いハイキングの場合、都県や区市町村のガイド・ヘルパーを利用することもできる。たとえば、東京都の場合は、1時間1600円、自己負担1割(所得制限あり)、日帰りのみ。新宿区の場合、自己負担3%、月40時間以内、日帰りのみなど。

注2)専門の登山ガイドでも、視覚障害者登山に慣れている方は少ない。ときにはガイドを断られることもある。逆に、視覚障害者登山のガイドを一般より安い費用で積極的に引き受けている方も数人いるようである。

注3)一般の山の会に視覚障害者がガイドを申し込んでも、ほとんどの会からは断られる(いくつか対応していただいたという話は聞くが)。それに慣れていないが故と思われる。

注4)交通費については障害者割引(特急料金を除いて、本人と付添いがそれぞれ5割引)が受けられるという特典がある。

5.多数の会員が運営に参加。
 六つ星では会員約200名のうち、3分の1の会員(山行の担当を含む)が運営に参加し、会を支えている。一般の山の会でも同様であるが、会員の参加比率は高いと思う。

6.担当者には特別の仕事がある。
 視覚障害者が会員なので、事務面、山行実施面で特別の仕事が必要である。

 事務面では、山行案内等の情報を伝達するために点字版の作成が必要である。もちろん、パソコンを利用している視覚障害者にはメールで伝達しているが、パソコンを利用していない視覚障害者(一部の女性や高齢の方々)もいるので、それらの方々には点字で情報を伝えている。また、墨字にして30頁程度の会報については、音声の録音テープを作成して送っている。

 また、山行ごとに毎回、触地図も作成している。
 一方、山行実施面ではサポートの確保が必要である。事前に申込みを受け、サポーターが足りないときは(一人にサポート二人が原則)、サポートを追加募集し(電話で心当りの方に依頼することもある)、それでも足りないときは一部の視覚障害者にお断りの電話をしなければならない。

 このほかにも、晴眼者の気配りが必要なことがある。たとえば、食事のときは、「左にさばの煮物、右に納豆、真ん中にしょうが焼き」といった説明をする。また、解散後のことだが、視覚障害者が一人で家に帰れるように最寄の駅まで同行をするといった気配りも必要である。ただし、これらは晴眼者にとって苦労ではなく、誰かのお役に立てるという喜びであり、晴眼者は喜んでやっている。

 これらの点が、一般の山の会とは異なるところであろう。(記・2009年2月5日)

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